Oリング(オーリング)は、産業用シール材の中で最も広く使用される部品のひとつです。本ページでは、ゴム材質・規格寸法・密封機構・取付設計・はみ出し防止・バックアップリングの選定まで、Oリングに関するあらゆる情報を体系的にまとめました。Oリングの基礎から実践的な設計・使用ノウハウまでを、初学者にも分かりやすく、かつ専門技術者にも納得いただける深さで網羅しています。
Oリング(オーリング)は、断面がO形をしたゴム製のシール部品で、装着溝に圧縮されることで密封効果を発揮します。 圧力が加わると、Oリングは片側に押し付けられて変形し、接面圧力を高めてシール性能を向上させます。 構造が非常にシンプルであるため、油圧機器、空圧機器、自動車、半導体製造装置など、さまざまな産業分野で使用されています。
また、Oリングは回転・往復動を伴うような箇所にも採用されており、その場合には特殊な溝設計や潤滑処理が重要になります。密封対象が液体か気体か、静止か可動かといった条件によっても選定基準が異なるため、用途に応じた設計と理解が欠かせません。
Oリングは主にJIS規格(B2401)に基づき、P型(ピストン用)、G型(固定用)、V型(真空用)などの形式で分類されます。またJIS規格以外にも海外規格やメーカー規格もあり、これらは軸方向または内径方向の圧力に応じて設計されており、用途に応じた選定が求められます。
ミリ系・インチ系サイズのバリエーションが豊富に存在し、AS568(米国規格)など海外規格にも対応。加えて、大口径Oリングや特殊断面のOリングも存在し、多様な産業のニーズに応えています。
特に線径と内径の組み合わせによる精密な選定が、シール性の維持と長期的な耐久性に直結するため、規格表や寸法一覧を活用して正確に把握することが重要です。
Oリングの性能を最大限に引き出すには、装着される「溝」の設計が非常に重要です。つぶししろ(圧縮率)は8~30%が一般的で、過小すぎると密封力が不足し、過大すぎると材料が劣化・破損する可能性があります。
圧力のかかる方向に応じたすきま設計も重要で、すきまが大きすぎるとOリングがはみ出して「むしれ」が生じることがあります。その防止策として、バックアップリングを併用する方法も広く用いられます。
また、固定用や運動用(摺動)によって求められる溝の表面粗さも異なります。粗さが不適切だと漏れや摩耗の原因となるため、材質や表面仕上げに注意が必要です。
OリングにはNBR(ニトリルゴム)、EPDM、シリコーンゴム、フッ素ゴム(FKM)、パーフロ(FFKM)など、多彩なゴム材料が使われます。これらはそれぞれ特性が異なり、耐熱・耐寒・耐薬品性・圧縮永久ひずみへの強さなどに違いがあります。
たとえばNBRは鉱物油に強く、EPDMは熱水や蒸気に適しており、FKMは高温・薬品環境に対応可能。FFKM(パーフロ)は半導体や医薬用途のような超高純度領域で使用されます。
材料選定にあたっては、「耐油性・耐薬品性一覧表」を活用することで、使用流体との適合性を事前に確認し、化学的トラブルを未然に防ぐことができます。
Oリングに発生しやすいトラブルには、装着時のキズやねじれ、誤った挿入方向による変形、圧縮永久ひずみによる密封性の低下などがあります。これらは、製品寿命を大きく損ねる要因となり、流体漏れや装置トラブルに直結するため注意が必要です。
特に潤滑不足によって起きる摩耗や、表面の乾燥により起きる表面クラックは、Oリングの柔軟性と密封性を低下させる要因です。事前に適切な潤滑剤を使用したり、Oリングの素材に応じた潤滑設計が求められます。
保管中の紫外線や熱による硬化、長期間の圧縮で発生する「圧縮永久ひずみ」は、見た目で異常がない場合でも劣化が進行していることがあるため、定期的な交換やチェックが重要です。
Oリングの製造には、主に「圧縮成形」「射出成形」「トランスファー成形」があります。これらは型にゴム原料を充填し、加熱・加圧して成形する工程であり、量産に適した手法です。標準的なサイズであれば、これらの方法で高精度なOリングを製造できます。
一方、送り焼き(エンドレスモールド)と呼ばれる製法は、継ぎ目のないOリングを製造するための特殊工法です。主に大径や特殊形状のOリング、あるいは継ぎ目からの漏れを防ぎたい高信頼性分野で採用されます。シームレスな構造により、密封性能や耐久性が大きく向上します。
Oリングの製造精度や公差は、用途によりJIS規格またはカスタム仕様で対応され、表面仕上げや後処理によっても性能が変化します。
従来のOリングでは対応できない、極めて過酷な環境に対応するために開発されたのが「高機能Oリング」です。これらは、パーフロロエラストマー(FFKM)や改質フッ素ゴムなどの高性能材料を使用し、高温・高圧・高濃度薬品・真空・クリーン環境といった厳しい条件下でも安定したシール性能を発揮します。
たとえば、デュポン社の「カルレッツOリング」は、半導体・製薬プロセスなどにおいて優れた耐薬品性と低アウトガス性を実現しており、クリーン度が求められる分野で広く採用されています。また「モリセイ高性能Oリング」は、成形精度と耐久性の両立を目指した国産高機能製品で、特殊設計用途に多く用いられています。
これらのOリングは高価ではありますが、設備停止のリスクを最小限に抑え、製造コストやトラブルを削減できる点で、総合的なコストパフォーマンスに優れた選択肢と言えるでしょう。