Oリングなどパッキンを使用する運動部、固定部のシールで材料の強度だけでは、耐圧性がなく、またすきまが大きいために溝からはみ出し、破損してシール性が失われる場合には、バックアップリングを併用します。バックアップリングは、はみ出す側(低圧側)に装着します。また、両側から圧力がかかる場合は、両側に装着します。ただし、バックアップリング自体も耐圧力を越す圧力を受けると、はみ出しを起こすことも考えられます。
バックアップリングの材料は、その用途によって、テフロン(フッ素樹脂),ナイロン(ポリアミド樹脂),ポリアセタール樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリカーボネート樹脂,皮、硬質ゴム,布入りゴム,軽金属などが使用されます。現在、最も使用されているのが、テフロン(ふっ素樹脂)製で、Oリング用など規格化されていたりパッキンなどは、それらの製造メーカーが標準品にしています。テフロンにも充填材入りなど様々な種類があり用途に応じて使用されています。皮は、昔使用されていましたが、現在はほとんど使用されていません。
(1967年に制定されたOリング用バックアップリングの旧規格JIS B 2407では、皮材料が削除されました。)
また、ナイロンや軽金属は、テフロンの耐圧を越える場合などに単体あるいはテフロンと組み合わせて使用されますが、ナイロンは、耐熱がテフロンに劣り、軽金属は、単体使用の場合、それ自体がOリングなどパッキンの破損の原因にもなるため使用範囲が限定されます。
また、バックアップリングは、はみ出しが問題にならない低圧の場合でも、Oリングの破損に多いむしれ,ねじれ損傷などの事故を防止しOリングの寿命を長くするという効果があります。
参考:JIS B 2401-4 Oリング-第4部:バックアップリング
テフロン・四フッ化エチレン樹脂・PTFE(以下「テフロン(PTFE)」称する)が使用されます。旧規格(JIS B 2401)では、他の樹脂やゴム、金属なども使用材料として挙げられていますが、テフロン(PTFE)の材料の特徴は、ほぼ全ての作動流体に対して低温から高温の温度範囲において安定で、溶解腐食されることがないことで、機器の使用されている温度では、粘着を起こすこともなく、極めて低い摩擦係数で使用できることです。ただし、充填材入りテフロン(PTFE)の場合は、充填材と作動流体との適合性を確認して使用するようにします。
バックアップリングの種類は、材料,色及び形状によって区分されます。
種類 | 材料 | 色 | 形状 |
---|---|---|---|
T1 | 四フッ化エチレン樹脂(テフロン) | 乳白色 | スパイラル |
T2 | 四フッ化エチレン樹脂(テフロン) | 乳白色 | バイアスカット |
T3 | 四フッ化エチレン樹脂(テフロン) | 乳白色 | エンドレス |
F1 | 充填材入り四フッ化エチレン樹脂(充填材入りテフロン) | 茶褐色 | スパイラル |
F2 | 充填材入り四フッ化エチレン樹脂(充填材入りテフロン) | 茶褐色 | バイアスカット |
F3 | 充填材入り四フッ化エチレン樹脂(充填材入りテフロン) | 茶褐色 | エンドレス |
参考:旧JIS B 2407(JIS B 2401 Oリング用バックアップリング) | |||
---|---|---|---|
記号 | 形状 | 材料 | 色 |
T1 | スパイラル | フッ素樹脂・テフロン(PTFE) | 白 |
T2 | バイアスカット | フッ素樹脂・テフロン(PTFE) | 白 |
T3 | エンドレス | フッ素樹脂・テフロン(PTFE) | 白 |
F1 | スパイラル | 充填材入りフッ素樹脂・テフロン(PTFE) | 茶褐色 |
F2 | バイアスカット | 充填材入りフッ素樹脂・テフロン(PTFE) | 茶褐色 |
F3 | エンドレス | 充填材入りフッ素樹脂・テフロン(PTFE) | 茶褐色 |
L(廃止) | エンドレス | 皮 | / |
バックアップリングの形状は、スパイラル,バイアスカット,エンドレスの3種類があり、バイアスカットはエンドレスをカットしたものです。Oリングのはみ出しを防止するという使用上の効果からは、エンドレスが最も優れますが、装着の点からは、スパイラル及びバイアスカットが便利です。
スパイラル | 圧力10MPa~20MPaの間で使用する。 使用温度が100℃を超える場合は、圧力10MPa未満で使用する。 |
---|---|
バイアスカット | 最も広く使われ、エンドレスよりも装着性が良い。 圧力15MPa~20MPaを超えても、Oリングの保護に優れている。 |
エンドレス | 一体溝又は小口径でハウジングへの装着が難しい。 圧力及び温度に対するOリングの保護に優れている。 |
ISO 3601-4では、5種類の形状が規定されていますが、JIS B 2401-4では、コンケーブの2種類が除かれています。コンケーブは特殊用途で装着する場合に方向性があり、漏れのトラブルなどにつながる場合があるためです。
コンケーブ形状バックアップリング
バックアップリングの装着位置は、用途及び圧力のかかる方向によります。圧力が片側だけから加わるときでも、取付けミスを少なくするために2個のバックアップリングをOリングの両側に1個ずつ取り付けることが望ましいのですが、圧力が一方向だけから加わりスペースの制限があり2個のバックアップリングの取付けが困難な場合は、1個のバックアップリングを低圧側に取り付けるようにします。 スパイラル及びバイアスカットを装着する場合、圧力側から見て右回り又は左回りかを考慮し、バックアップリングがばらけないように注意する必要があります。 スパイラルは、組み込む時に、スパイラルがハウジングの深い方へ巻き付いていくように適切な方向に回すことが大切です。
バックアップリングに用いる材料は、完全に焼成されたテフロン(PTFE)又は充填材入りテフロン(PTFE)です。
ISO 3601-4では、充填材の種類としてガラス(15%,質量%),カーボン(10%~15%,質量%),ブロンズ(40%,質量%)及び材料として、ポリアミド,熱可塑性樹脂,ポリウレタンなどが紹介されていますが、物性値が示されておらず、種類記号及び材料の特性がまだ決まっていないため、JISからは除かれています。JISではテフロン(PTFE)の特異な物性もあり、従来通り2種類の材料の特性値及び試験方法を規定し標準材料の材料特性としています。
バックアップリングに用いる材料の特性(JIS B 2401-4)
項目 | 四フッ化エチレン樹脂 (テフロン) |
充填材入り四フッ化エチレン樹脂 (充填材入りテフロン) |
試験方法 |
---|---|---|---|
比重 * | 2.14~2.20 | 3.00~4.00 | JIS K 6891 |
引張強さ ** Mpa | 14.7以上 | 12.0以上 | |
伸び ** % | 100以上 | 100以上 | |
硬さ ** タイプD | 50以上 | 60以上 | JIS K 7215 |
寸法安定性 *** % | ±0.5以下 | ±0.5以下 | - |
*比重測定用試験片は、製品から採取する。 **引張強さ、伸び及び硬さ測定用試験片は、製品と同一条件で成形した板から採取する。 ***測定用試験片は、注**によって成形した板から直径20mmの円板を打ち抜く。 これを175±5℃で1時間空気中で加熱した後、恒温槽から取り出し、 25℃まで自然冷却した時の直径変化率を求める。 寸法測定は、25±2℃で行う。 |
製品の識別コード(JIS B 2401-4)は、以下の運動用Oリング(P)及び固定用Oリング(G)用とISO一般工業用Oリング(F)及びISO精密機器用Oリング(S)用があります。
運動用Oリング(P)及び固定用Oリング(G)に使用するバックアップリングの製品の識別コードは、名称の略号,規格番号,種類及びリングの呼び番号によります。
スパイラル,テフロン(PTFE),リングの呼び番号P20の場合
BR : 名称(バックアップリング)の略号
JIS B 2401-4 : 規格番号
T1 : 種類
P20 : リングの呼び番号
ISO一般工業用Oリング(F)及びISO精密機器用Oリング(S)に使用するバックアップリングの製品の識別コードは、名称の略号,規格番号,種類,Oリングの太さ,用途の記号,ロッド径又はシリンダ内径,及びハウジング溝径によります。
スパイラルでOリングの太さ6.99mmに使用し、ロッド運動用でロッド径が200.00mm,ハウジング溝径が211.8mmの場合
BR : 名称(バックアップリング)の略号 ~ BRの後ろに1文字分の空白を入れる。
JIS B 2401-4 : 規格番号 ~ JIS B 2401-4の次にハイフンを入れる。
T1 : 種類 ~ バックアップリングの種類を入れた後にハイフンを入れる。(T1はスパイラル,T2はバイアスカット,T3はエンドレス。T1,T2,T3は、テフロンを材料とする。)
699 : Oリングの太さ ~ 3文字でOリングの太さ(mm)を100倍にして入れる。次にハイフンを入れる。例えばOリングの太さが6.99mmの場合、3文字は699である。
RD : 用途の記号 ~ 用途の記号を入れる。ピストン運動用の場合はPD,ピストン固定用の場合はPS,ロッド運動用の場合はRD,ロット固定用の場合はRSとする。次にハイフンを入れる。
020000 : ロッド径 ~ 6文字でロッド径(mm)又はシリンダ径(mm)を100倍して入れる。ロッド用の場合は内径でピストン用の場合は外径である。例えば動作する直径が200.00mmの場合、文字は020000とする。次にハイフンを入れる。
021180 : ハウジング溝径 ~ 6文字でハウジング溝径(mm)を100倍にして入れる。例えばハウジング溝径が211.8mmの場合、文字は021180とする。
バックアップリングは、一般に高温,高圧で使用する場合のOリングのはみ出し,隙間へのはみ出しを防止するものです。規格では、それぞれの種類のバックアップリングに対する圧力又は温度の使用範囲が規定されていますが、Oリングのはみ出しは、ゴムの硬さとはみ出し隙間にも依存します。
はみ出しの程度は、Oリングの硬さ,溝部の隙間,圧力などによって決まり、実験的に値が求められています。バックアップリングも高圧になると、はみ出し現象が発生します。
ISO一般工業用Oリング(F)及びISO精密機器用Oリング(S)に用いるバックアップリングの形状・寸法
スパイラルの隙間は、マンドレルに装着した状態の寸法で下記の表によります。
Oリングの太さW(mm) | マンドレル径d(mm) | 隙間L(mm) |
---|---|---|
1.78 | d≦10 | 1.2±0.4 |
10<d≦20 | 1.4±0.6 | |
20<d≦60 | 1.8±0.6 | |
d>60 | 3±1.5 | |
2.62 | d≦20 | 1.2±0.4 |
20<d≦39 | 1.8±0.6 | |
39<d≦170 | 3±1.5 | |
d>170 | 4.4±2 | |
3.53 | d≦19 | 1.2±0.4 |
19<d≦39 | 1.4±0.6 | |
39<d≦76 | 3.2±1.6 | |
76<d≦114 | 4.4±2 | |
114<d≦393 | 6.4±1.6 | |
d>393 | 6.4±2 | |
5.33 | d≦26 | 1.8±0.6 |
26<d≦35 | 3±1.5 | |
35<d≦60 | 3.2±1.6 | |
60<d≦280 | 4.4±2 | |
d>280 | 6.4±2 | |
6.99 | d>100 | 6.4±2 |
バックアップリングの厚さの寸法及び許容差は、Oリングの太さによって区分されます。
バックアップリングの厚さ(mm) | Oリングの太さ(mm) | ||||
1.78 | 2.62 | 3.53 | 5.33 | 6.99 | |
バイアスカット及びエンドレスb | 1.4±0.1 | 1.4±0.1 | 1.4±0.1 | 1.8±0.1 | 2.6±0.1 |
スパイラルb | 0.7±0.05 | 0.7±0.05 | 0.7±0.05 | 0.9±0.06 | 1.3±0.08 |
バックアップリングの幅は、ハウジングの半径方向の深さによります。例えば、油圧の運動用,固定用などの用途によるハウジングの深さに合わせて、バックアップリングの半径方向の幅を決めます。空気圧用では、バックアップリングは不要です。
ピストンシール用のバックアップリングの幅は、シリンダ内径から、ハウジング溝径の呼び寸法を引いた後、1/2にして求めます。
ロッドシール用のバックアップリングの幅は、ハウジング溝径から、ロッド径の呼び寸法を引いた後、1/2にして求めます。
バックアップリングの幅の許容差は、0-01mmとします。
ピストンシール用のバックアップリングの外径は、シリンダ内径の呼び寸法とします。 スパイラルの外径の許容差は、バックアップリングの幅の許容差0-0.1mmによります。 バイアスカットの外径の許容差は、下記の表によります。この許容差は、バックアップリングを切断する前の値とします。
シリンダ内径 (mm) |
≦50 | >50 ≦120 |
>120 ≦180 |
>180 ≦250 |
>250 ≦310 |
>310 ≦400 |
>400 ≦500 |
>500 ≦600 |
>600 ≦700 |
dの許容差 (mm) |
+0.05 -0.10 |
+0.08 -0.16 |
+0.10 -0.20 |
+0.13 -0.26 |
+0.15 -0.30 |
+0.22 -0.44 |
+0.30 -0.60 |
+0.38 -0.76 |
+0.48 -0.96 |
ロッドシール用のバックアップリングの内径は、ロッド径の呼び寸法とします。 スパイラルの内径の許容差は、バックアップリングの幅の許容差0-01mmによります。 バイアスカット及びエンドレスの内径の許容差は、下記の表によります。この許容差は、バックアップリングを切断する前の値とします。
ロッド径 (mm) |
≦50 | >50 ≦120 |
>120 ≦180 |
>180 ≦250 |
>250 ≦310 |
>310 ≦400 |
>400 ≦500 |
>500 ≦600 |
>600 ≦700 |
Dの許容差 (mm) |
+0.10 -0.05 |
+0.16 -0.08 |
+0.20 -0.10 |
+0.26 -0.13 |
+0.30 -0.15 |
+0.44 -0.22 |
+0.60 -0.30 |
+0.76 -0.38 |
+0.96 -0.48 |
国内に流通しているOリング用のテフロン(PTFE)製バックアップリングの寸法・サイズ表です。
OリングJIS B 2401-1 P番及びG番、AN6227/旧JIS W 1516及びAN6230/旧JIS W 1517に使用されるバックアップリング
運動用・固定用Oリング | P - シリーズ用(JIS B 2401-4) 固定用Oリング | G - シリーズ用(JIS B 2401-4) 運動用・固定用Oリング | ANP - シリーズ (AN6227/旧JIS W 1516タイプ)用 固定用Oリング | ANG - シリーズ (AN6230/旧JIS W 1517タイプ)用 フランジ用Oリング | P - シリーズ・G - シリーズ用(T4) Oリングの寸法表・Oリングのサイズ表