ゴム製品を、大気中に暴露して放置しておくと、製品の表面に無数の亀裂が入ります。この亀裂の原因が大気中のオゾンによるものか、日光の紫外線の酸化による劣化か昔は、分かりませんでした。その後、色々な研究によって違いが区別出来るようになりました。
光による酸化では、色が関係します。実際は、色と言うより配合によって違う訳ですが、特に白など明色で劣化が発生し、黒色では、劣化が発生しにくくなっています。これは、現代の合成ゴムの実用配合の多くは、カーボンブラックが多く配合されていまので、このカーボンブラックが光の影響を阻止してしまうからです。これとは逆に、オゾン劣化は、色に関係なく発生します。
また、劣化の仕方が、日光の光の場合は、酸化された表面にランダム方向に無定形にひび割れ(亀裂)が生じますが、オゾンの場合は、応力(ひずみ)がかかった方向の垂直方向に亀裂が生じます。
ゴムの耐オゾン性は、ゴムの分子構造によって左右されます。ポリマー主鎖に、不飽和構造(二重結合)を持つものは、弱く、飽和構造を持つものは、強くなっています。これは、オゾンが二重結合との反応性が高いことがあげられますが、親電子反応性も影響しています。例えば、NR(天然ゴム)とCR(クロロプレンゴム)は、ともに二重結合を持っていますが、二重結合による反応性が、電子供与性基のあるNRが高く、電子吸引基があるCRは、低いなど、耐熱性と同様にゴムの材質によって反応は違います。
フッ素ゴム(FKM)、シリコーンゴム(Q)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、アクリルゴム(ACM)
クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ウレタンゴムの一部
天然ゴム(NR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ウレタンゴムの一部
ゴム製品は、言うまでも無くゴム弾性という他の材料より優れた機能を利用しています。逆に言えば、ゴム弾性を必要としないのであれば、ゴムを使用する意味がありません。つまり、特別なものを除きほとんどのゴム製品は、使用時に何らかの応力(ひずみ)がかかっています。ある実験で、5%の伸びでは、数個の深くて大きな亀裂が生じ、100%の伸びでは、無数の浅くて小さな亀裂が生じ、10%~20%程度の伸びの亀裂がもっともひどいことが分かったそうです。また、湿度の高い場合は、オゾン吸収量や表面の劣化は高くなります。一見伸びを与えていないゴム製品でも、そのように湿度の高い状態でオゾンの濃度が高ければ、オゾンクラック(亀裂)が発生することがあります。その劣化の状態は、一見方向性のない酸化劣化のように霜降り状態に見えます。これらは、現実問題として、応力をまったく0にすることは、不可能に近く、例えば、机の上に置いたゴム製品でも自重によって応力がかかってる(ゴムであるがゆえに)ように何かの応力はかかっています。オゾンによる亀裂が一見方向性の無い様に見えても、細かくみればその応力の方向と垂直方向に亀裂が入っています。ゴム製品の材質を選択するには、考慮する必要のある現象です。
オゾンによる劣化がありそうな所で使用する場合は、下記のような点で防止するようにしています。
1)上記にあるように、オゾンは、ゴムの二重結合に作用するので、二重結合がないか少ないゴムを選択します。
2)二重結合を持つゴムには、耐オゾン性を向上させるため、ワックスや老化防止剤を配合します。ワックスは、ゴム表 面に徐々に出てきて(ブルーム)薄い膜を作り、ゴム表面を保護します。老化防止剤は、ゴムとオゾンが反応して亀裂へと成長する過程を防止します。前者は物理的に、後者は化学的にオゾン劣化を防止します。
3)出来るだけ応力のかからない状態にします。保管についても応力のかからないように保管し、極端に重ねたり、曲 げたり、または、吊るして保管することのないように慎重に扱います。
4)湿気の多い場所や、オゾン濃度の高い場所で、オゾン劣化しやすいゴム製品を使用したり、保管することの無い 様にします。モーターやクラッチなど高圧電流の近くや、クリーンルームなどのオゾン発生装置の近くでの使用及び保管、また日光が、オゾン劣化と直接関係ないとはいえ日光の当たるところは、他の場所よりオゾンの濃度が高いので オゾン劣化しやすいゴムを屋外で保管しないようにします。
以上などが考えられます。
ゴムの種類 | 略号 | 耐熱限界温度 ℃ |
耐熱安全温度 ℃ |
耐寒限界温度 ℃ |
---|---|---|---|---|
ニトリルゴム | NBR | 120 | 80 | -50 |
水素化ニトリルゴム | HNBR | 140 | 110 | -30 |
ふっ素ゴム | FKM | 230 | 200 | -15 |
シリコーンゴム | VMQ | 230 | 180 | -50 |
エチレンプロピレンゴム | EPDM | 140 | 120 | -40 |
クロロプレンゴム | CR | 110 | 70 | -40 |
アクリルゴム | ACM | 160 | 140 | -20 |
ブチルゴム | IIR | 140 | 110 | -40 |
ウレタンゴム | U | 100 | 70 | -30 |
クロロスルフォン化ポリエチレンゴム | CSM | 130 | 100 | -30 |
エピクロルヒドリンゴム | CO,ECO | 130 | 100 | -30 |
天然ゴム | NR | 80 | 65 | -50 |
ふっ素樹脂(参考) | PTFE | 260 | 250 | -100 |